玉筋魚の釘煮
兵庫県は神戸市といえば港町。
その神戸にある垂水漁港。垂水の名物といえば、イカナゴの釘煮である。
イカナゴとは玉筋魚と書き、漢字のとおり玉についた筋のような小さな魚である。
ちなみに古語で、いかなご→「かな」は糸の意味であり、糸くずのような魚でもある。
これが冬の終わりから春先にかけて、漁港に上がり、垂水の市場に生のまま並ぶことになる。
もちろん釘煮として並ぶこともあるが、それらはほとんどおみやげである。
垂水の住民は、生のイカナゴをキロ単位で買ってきて、自分の家で釘煮にする。
釘煮とは、砂糖醤油に生姜で煮付けたイカナゴがまるで小さな釘のようなるところからつけられた名前である。
ようは醤油砂糖で煮込みまくった佃煮であるわけで。
この時期になると、垂水の住宅街には甘辛い良い匂いが漂うのだ。
大げさに言っているわけではない。
本当に、歩いていると独特の匂いがそこいらじゅうから漂い、あぁそろそろ春だなぁと思うのである。
ところで、各ご家庭で作るわけなので、当然のことだが、それぞれで味が違う。
隣近所で、自分の家でつくったイカナゴの釘煮を交換するのもよく見かける風景である。
……が、さすがに最近では、あまり見かけなくなってきた。
ごはんにかけて食べると美味しいのだが、お菓子に慣れた今時の子のクチには合わないのだろう。
ところで、たまにイカナゴの釘煮と称して、ずいぶん柔らかいイカナゴの煮付けが売られていることがある。
が、ぶっちゃけ、あれは釘煮ではないと思うので、お間違えないように。